【2018年秋アニメ】ゾンビランドサガはなぜこんなに面白いのか
なんでだろうね。
私はこのアニメを、奇跡的なバランスで組み立てられた新世代のアイドルアニメだと考えている。
たまたまジムのテレビで観た2話で衝撃を受け、7話放送後の現在でも熱は上がる一方だ。本当に面白い。
個人的にはこの作品のおかげで けもフレ、まどか、コードギアス、グレンラガンを初めて観た時くらいにはアニメ熱が再燃してしまっている。
そして、色々なアニメファンに是非オススメしたい作品である。
特にこんな人。
- アイドルアニメをあまり観たことがないわぁ
- アイドルアニメはいい加減もう食べ飽きちゃったわぁつーかアニメ自体飽きたわぁ
私はどちらかというと後者で、ここ7年位のアイドルアニメはそこそこ知っている方だった
(あくまでもそこそこレベルなので円盤買うくらい入れ込んでいるじゃないです)
…が、 このアニメ、アイドルアニメというジャンルに限るなら個人的に史上最高。
西日本新聞で取り上げられたり、アマゾンの円盤予約が好調だったりと注目が高まっている今、これを書きたかった。
だいたい言いたいことを書いてしまったのだけれど、こんなとこが面白いよ! っていうところを書きなぐっていくので、よろしければ続きを読むからどうぞ。
あ、これだけは今のうちに書いておこう。
まだこのアニメを観たことが無い人は
1話冒頭の2分、それから2話を見てください。Amazonプライム・ビデオとかで。お願いします。
以降は 7話までのネタバレ、また個人的な主観や偏見マシマシですのでご注意下さい。
↓
※特定の人物、特定の作品またはその関係者やファンをdisるような表現が含まれているかもしれませんが、特定の作品をdisるつもりで書いてはおりません。気分を害される表現がございましたら申し訳ございません。
なぜ面白いのか? 私はバランスだと思う。
記事の頭で奇跡的な、と書いたのは「このアニメが偶然面白いように出来て、それがじわじわ受けたから」という意味ではなく むしろ逆。別の作品でこんな計算されたものを作るのはもう後にも先にも不可能なんじゃないかと思うくらいに計算されて上手く組み立てられているアニメだからである。
具体的にはこれらが本当に丁度良いバランスで組み立てられており、だから我々は面白く感じる。その先の展開に期待する。悪い意味での「この先裏切られちゃうんじゃないか」という不安が無い。キャラがかわいいとかそういう単純な言葉だけでは全てを語れず、しかし深く考えなくともエンタメとして頭に入ってくる、記憶に残る。何回でも繰り返し観たくなるしその度に発見がある。
それぞれの要素をちょっと掘ってみよう。
ゾンビ・アイドル・佐賀
一見奇抜な組み合わせだが、我々 映像作品をちょっとでも見てきた人間にはそれぞれ共通の認識がある。言い換えれば「お約束」である。
- ゾンビ … (主に)ホラー・コメディ要素、シリアス要素。動く死体、人を噛むとか襲うとか
- アイドル … スポ根要素。女の子の夢、仲間やライバル、友情努力勝利
- 佐賀 … ご当地要素。観光スポットとか食事とかあるあるとか方言とか
もはやお約束すぎて、それぞれの要素は語るまでもない。それぞれ(「佐賀」はかなり異質だがご当地作品全般として考える)をテーマにした映像作品はごまんとある。
だが、それらをバランス良く組み合わせた作品はこれが初である。制作陣のお話を聞く限りだと、神バハのリタをきっかけにかわいいゾンビを描きたい・色んな時代のアイドルのグループを描きたい といった欲望から生まれた作品らしい。今思うとコンセプトとして大成功じゃないだろうか。
とはいっても、「お約束」だからこそ これらの要素のバランスが取れていないと1クールの作品として破綻してしまう。ゾンビ要素を強くすると、ゾンビあるあるみたいなコメディばかりになってストーリーとして横道に逸れすぎる。アイドル要素を強くすると、有象無象のアイドルアニメと比較され埋もれてしまう(個人的にはそれでもいいが)。ご当地要素を強くすると、現地民くらいにしか理解されない身内ネタ一辺倒になってしまい初見さんバイバイになってしまったり、特定のものをバカにしたりしがちになる。
それを本作では例えばこんな風に扱っている。それぞれを立て、それぞれの魅力を押し出すような相互作用を生んでいる。
◆ゾンビ … 「ゾンビやけん吸収が早えんだ!」とか「バリケードを作るのはゾンビに襲われる側じゃい ボケェ~~ッ!!」 といった気の利いた? 短いギャグセリフ。不眠でも良いため極端に短い練習期間でもOKといった一種のご都合説明。死因や生前といったキャラクターの背景設定。メイクが落ちて一般人を驚かせて失敗してしまうといった話のオチ。
死人だからこそできる帯電ライブ。
◆アイドル … 「アイドルとして佐賀を救う」ストーリーの主軸、また主人公たちの目標、生きる意味
◆佐賀 … 作品の舞台。(主に仕事として)ドライブイン鳥といったニッチなスポットとの関わり。町並みやイベント、食事などご当地ならではの魅力付け。「佐賀を救う」目標
キャラクターデザインとキャラ同士の関係性、キャスティング
フランシュシュはアイドルグループとして、また脚本上の役割としてバランスが良い。
- さくら … 平成没。アイドルに憧れる普通の女の子。記憶を失い生前や死因に謎がある。アイドル活動に対し意欲的に奮闘する。
- サキ … 昭和没。グループのリーダーとして時に強い口調でメンバーの意見を聞いたり、声出しをしたりする。地元愛が強い。話の「火付け役」
- 愛 … 平成没。プロ意識があり中途半端を許さない。技術と勝ち気な性格でグループを引っ張る。
- 純子 … 昭和没。こちらも元トップアイドルとして彼女なりのアイドル観があり、プロ意識が高い。普段は控えめな性格だが、ステージでは実力でチームを支える。
- ゆうぎり … 明治没。人生経験の豊富さを見せ、一歩引いた視点からアイドルに挑む。ジェネレーションギャップをむしろ楽しもうとする。
- リリィ … 平成没。最年少ながら大舞台にも強気に挑む。時おり毒舌を見せる大人びた一面も。
- たえ … 謎多きゾンビィ。最初は本能のままに動いていたが、次第に自らメンバーと意思疎通を図ろうとしたり、グループのために出来ることを頑張ろうとする。
平成とそれ以前の時代を生きたそれぞれ異なるバックボーンを配置し、意図的にジェネレーションギャップや異なるアイドル観を生もうとしている。それが時にメンバー間の対立を生み、時にそれらを個性として認め合い伸ばし合う対象ともなる。
2話時点までは「元プロ」という個性が被っている愛と純子は何か似てるな~~ と思っていたが、6話~7話の 昭和・平成アイドルの価値観の違いから生まれる対立や、それぞれの弱みを支え合いお互いに輝こうとする「私がフォローする」の掛け合い で上手いこと特徴付けられたな と思うようになった。
また、彼女らを取り巻く形で、プロデューサーである巽や、サブキャラクターとして ドライブイン鳥の社長、アイアンフリルのメンバーらが登場する。サブキャラクターにもしっかりセリフをしゃべらせ、ただの舞台背景としてではなくそれぞれに魅力や役割を持たせることにも成功している。
キャスティングについてだが、主役のさくら役に『バトガ』『刀使ノ巫女』等で若手ながら主役級にふさわしい輝きを見せる本渡楓さん、元プロアイドルの愛役・純子役にそれぞれ特に歌唱方面で実力の高い種田梨沙さん・河瀬茉希さん、 そして年長キャラで、かつゾンビ声や鶏や犬の鳴き真似といった特殊な役回りをこなす山田たえ役に三石琴乃さん を配役したのは完璧といって良い。完全にハマっている。
プロデューサーとアイドル
ここまで職業としての「アイドル」に切り込んだアニメ作品は、正直私は観たことがない。
アイドルとはステージに立ち、イベントに参加し、テレビやメディアに映り、そしてパフォーマンスによって人々に夢や元気を与える。一般的にはそんな存在である。
一方で歌やダンスその他の練習努力をとことん行い、意識的に自分を売り出していかないと行けない。そもそも仕事を取ってこないとステージに立てないし、すぐに売れないと生き残ることはできない。
アイドル活動とは、大体のところアイドルだけではなくプロデューサーやマネージャー、スタッフやスポンサーといった下支えがあって成り立つものなのである。 その様子を丁度よいバランスで描いている。
プロデュース業は短い1クールアニメという都合もあって 巽一人が担っているが、仕事を取ってくるのはもちろんの事 メンバーが暴走したり危険に遭ったりしないか陰で見守り、時にアイドルに対して助言や教示を与え、純子ら悩むアイドルの価値観を受け入れ分かりやすい言葉で長所を伸ばそうとする。また1話時点からアイドル史観や「アイドル戦国時代を経て娯楽が多様化し、アイドルへの需要が減り価値観が四散した現代に敢えて一石を投じ、伝説を残す」という彼なりのプランがありグループを引っ張ってゆく。
7話までの巽の活躍を見ていると、地下室(ミーティングルーム)でのおちゃらけは単なるスベリ芸のようなものとして受け入れられる。むしろただ説教をするだけでは映像として見ていられそうにないので、多少のコミカル要素として必要なのだ。誰だってアニメの中でくらい、こっぴどく叱られるような体験はしたくない。現実でないのだから。
繰り返すが、アニメであってドキュメンタリーではない。だが下支えの動きを各所で見せることでどこか話としてリアリティがあり、だから面白い。多少でもリアリティがないと、「ライブで受けた!」というせっかくの成功体験も共感できずただのお遊び・ご都合・偶然・虚構に見えてきてしまう。
営業をしたから仕事があり、ステージに立てる。資金があるからCDを出せる。練習をしたから踊れる。助け合えるから失敗や弱みをフォローし合い、全体として成功できる。この当たり前のことがちゃんと『ゾンビランドサガ』では描けている。正直ここまでほぼ完璧に、たったこれだけのことを出来ているアニメを私は知らない。
ストーリーの構成、宣伝販売方法
私は不幸にして第一話放送にリアタイで間に合わなかったのだが、 本作は第一話放送時までほぼ内容を明かすようなCMを打たず、敢えて必要以上に注目を集めなかった。先行試写会でも観客に「ネタバレ禁止」の誓約書を書かせたとか。
恥ずかしながら私も、可愛い女の子がゾンビに襲われる有象無象のシリアスホラーだとばかり思っていた。が、良い意味で裏切られた。どストライクなアイドルアニメだったのだ。
簡単にこれまでのストーリーを話ごとに見返してみると、その構成のバランスの良さに驚愕する。
- 引き込み 冒頭の衝撃的なシーンで引きつけ。シリアスホラー、舞台の説明、目的の説明、さくらは突然のライブに翻弄されるが、アイドルに魅力を感じるようになる
- ヒップホップ回 1話の反省会を経てろくな練習もなくライブへ。メンバーごとに意識がバラバラ。ラップバトルで失敗を挽回
- ゲリラライブ 2話の反省会を経てリーダー決め、グループ名決め。練習をするようになるが愛・純子が離反する。ゲリラライブを愛・純子がフォローする。ステージとしては失敗だがメンバーの意識が一つを向くようになる
- 温泉回 3話の反省会。営業によりタイアップのチャンスを得る。足湯で「アイドル」について意見をぶつけ合う。ステージについて話し合い、アイデアを実践する。パフォーマンスはまだまだだが、ステージは成功する。タイアップ先の広報部長を脅かしてしまい、営業は失敗する。
- ドライブイン鳥コラボ・ガタリンピック回 4話の反省会。サキを中心にドラ鳥の魅力を楽しむ。CM撮影ではたえをさくらと愛がフォローし、上手く活躍させる。ガタリンピックでは宣伝のチャンスを掴もうとするが上手く行かず、さくらの機転によりたえにアピールさせようとするが失敗する。記者に目をつけられる
- チェキ会 新曲のダンス習得に苦労するメンバー。これまでの活動を経てファンが増える。時代に純子が戸惑い、アイドル観の違いから愛と純子が対立する。愛と純子の生前と死因が語られる。
- 佐賀ロックフェス 純子が離脱してしまうが巽が奮起させる。愛と純子が互いの弱みを認め、本番でフォローし合い最高のパフォーマンスを発揮する。
1~7話の全体の流れを見てみると、1話でインパクトを与え視聴者の興味を引く、2話~5話で少ないチャンスを活かしその先の成果を掴もうと奮闘する、シーズンとして後半に差し掛かる6~7話で大きなチャンスを掴み、問題を克服し成功する というメリハリのある流れとなっている。アイドルものとしては王道だが だからこそ安定しており、話の流れとして安定しているからこそ「今は喧嘩しているが、次の話ではきっと仲直りしてより絆が深まるのだろう」と安心して見ていられ、更にキャラの魅力であったり背景設定であったりといった細かい部分まで注意が向くような全体的な面白さに繋がっている。この先の超大まかなストーリーとして想像できるのは、仕事を通して残りのキャラの掘り下げ、さくらの過去話と巽の正体(これまでのネタばらし)、何か大きな問題とそれを克服し更に大きなステージに挑む といったところだろうか。
話ごとの中身を見ていると、話の安定感を生んでいる要素は巽がメンバーを地下室風のミーティングルームに集めおちゃらけながら説教? をするあの反省会にあることがわかる。毎回のようにアイドルが何かに挑む前に反省会が挟まれており、そこで前回の振り返りを行うことで視聴者にも「前回こんなことがあった」「あんなことがあって成功したり失敗したりした」「お客さん・世間はこんな反応だった」「次はこうしよう」といった比較的客観的なことが一発で分かる。盛り上がりどころではラップやガタリンピックなど突飛なことばかりやっているように見えて、反省会により ちゃんとこれまでの積み重ねが活きており、これからやることは目的のあるアイドル活動なのだという意識付けがアイドル・視聴者それぞれにできている。アイドルという道を外れないようにしているのだ。
反省会、練習努力、失敗/成功のサイクルを2話~5話それぞれの中で作り、一話完結風にそれぞれオチを付け、1話それぞれを立たせた。視聴者としても作品に慣れてきたところで 6話から一気にシリアス風に話が動いたが、そこでキャラの掘り下げに意識を向けさせられても違和感が無くむしろ没入感がある。脚本としては5話までの流れを下積みとするなら、これから先の ブレイクしていく彼女らフランシュシュの活躍・問題解決・成功そしてラストまでの深いストーリーこそがやりたいことだろう。彼女らには成功も失敗もあったが、必ず理由がある。それらが話全体としてバランスよく配置されている。
こうしたストーリーで扱われたからこそ、BD特典のCD(目覚めRETURNER、ようこそ佐賀へ、DEAD or RAP!!!、サガ・アーケードラップ)や特典映像も俄然魅力的に見えてくる。特に7話の帯電によりエレクトロリミックスもされた「目覚めRETURNER」は最初にアニメで聴いたときとは異なる、彼女らのアイドル活動と共に生きる相棒のような曲として聴こえることだろう。
その他要素
ここがすごいなー と思うところを少しだけ書いていく。
○アイアンフリル
愛が離脱してからもメジャーアイドルグループとして活躍する彼女ら。生前のさくらの憧れでもある。現在のアイアンフリルとの直接的な関わりはないが、生まれたばかりのフランシュシュにとっては目指すべき目標であり、ライバルのような存在だろう。
7話ではついに彼女らの生ライブが披露された。フランシュシュのライブは3DCGモデルのダンスなのに対し、彼女らのステージはなんと全て手描きアニメだったので大いにたまげた。否が応でも、やっぱり凄いグループなんだと思わせる。
○セリフ
キャラを特徴付けるセリフの数々。2点だけ抜き出す。
【2話】
・サキ:あたしら終わってんだよ、もう何も変わりゃしねえよ!
・さくら:まだ終わっちゃいねえだろ、むしろ始まったばっかだろ!!
ステージでメンバーを奮起させ、サキにアイドルの道を向かわせたきっかけになるフレーズ。志半ばで倒れ、さくらに至っては記憶も無いが、それでもやれることをやり、何かを掴みたい、そして生きたいというその先にも繋がる魂の叫び。私はこれで視聴継続を決めた。
【3話】
・巽:あいつらはゾンビィだが、生きようとしている。お前らは、いつまで腐ったままでいるつもりだ?
一夜漬けの練習でライブなんて出来るわけがない、半端な気持ちでやるステージに意味は無いと練習を抜けた愛と純子に掛けた一言。最初は は? ゾンビに掛けて上手いこと言ったつもりか? と思ったが、繰り返し観たり後から見返してみると中々鋭いセリフである。事実、これを受けて二人は他メンバーの「本気」を見極めグループに加わることを決意する。一度死に、第二の生を得た彼女らの生まれた意義は何か。これから生きる理由は何なのか。
終わりに
バランスが良いからゾンビランドサガは面白い。
あまりバランスの良さについて具体的に語れなかったかもしれないが、ぜひBDやストリーミングメディアで繰り返し観て、発見を得て本作のバランス感を楽しんでほしいと思う。
最後にこれだけは言いたい感想。
これだよ、こういうのが観たかったんだよ。
それでは。